■亀の子コンクリート考
第五回:ポリマーの添加によるコンクリートの補強 小林 映章

文献上で見られる有機ポリマーのコンクリートへの添加は1920年代で、天然ゴムラテックスを添加した舗装材が提案されている(British Patent 191474 (1923))。その後高分子化学工業の発展に伴ってポリマー材料は天然ゴムから合成ゴムや合成樹脂に移っていった。わが国におけるセメント用ポリマーの本格的な普及は東京オリンピック(1964)以降と言われている。ただ、普及と言っても、その性能や経済性の制約からほとんどはモルタルへの添加に限られていた。しかし近年、透水コンクリートの台頭と共にその利用が進展する機運にある。

コンクリートの補強に利用されるポリマーは、水に懸濁させた粒径0.05~5μm程度のポリマーディスパージョンや液状ポリマーが主で、ポリマーディスパージョンにはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、ポリ酢酸ビニル樹脂(PVAc)、ポリアクリル酸エステル(PAE)、液状ポリマーにはエポキシ樹脂がある。また水溶性のポリビニルアルコール(PVA)なども検討されている。ポリマーセメントコンクリートは、ポリマー無添加のコンクリートに比して水蜜性、付着強度、曲げ強度、耐薬品性等が向上する。

有機ポリマーが無機のコンクリートを補強するメカニズムは興味あるところであるが、これについては日大の大浜教授が分かりやすい解析をされている(笠井、小林:セメント・コンクリート用混和材料:P.190、技術書院(1986))。したがってここでは若干観点を変えて、水溶性ポリマーとポリマーディスパージョンの違いについて触れてみたい。

水溶性ポリマー、例えばPVAはポリマー分子に水が配位(水和)した形で水に溶けているが、これをコンクリート練り混ぜ時に添加すると、セメント粒子の水和の過程でポリマー分子とセメント粒子が水を奪い合うことになる。セメントに水を奪われたポリマー分子は分子内で「水素結合」を作るか、周囲のセメント粒子や骨材の表面の水酸基と水素結合を作って安定し、コンクリート内に分散していると考えられる。したがってこのような水溶性ポリマーはコンクリートの補強には大きな寄与はしないし、添加量が多いとかえって強度を低下せせることになろう。

一方SBR のようなポリマーディスパージョンは、界面活性剤で周囲を取り囲まれたポリマー粒子が水中に懸濁しているもので、これをコンクリートに添加して練り混ぜると、自分が浮遊していた水を全部セメントに奪われ、本来疎水性であるから粒子どうしが互いに集まって皮膜を形成する.このポリマー粒子の集合はポリマー粒子が運動できる水が存在する間に限られる.いったん出来た皮膜は強靭でセメント水和物と混ざり合い、また骨材にも付着して補強の役を果たす。したがって、ディスパージョンの場合は添加量が多いほど強度アップに寄与するし、また加熱等により水を完全に放逐するといっそう強度が増すことになる。


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