■亀の子コンクリート考
第二十四回:分野変われば言葉も変わる 小林 映章

今年も早くも5月の大型連休が終わった。今回は肩の凝らない話題にしたい。

コンクリート関連の仕事に関わって間もなく減水剤というものがあることを知った。減水剤がどういう物であるかは別として、まず戸惑ったことは、減水剤というコンクリート混和剤には、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤というように、高性能という言葉がついたものと、つかないものがあることであった。ちょっと考えると、同じ範疇のもので性能の高くないものなど使ってもらえないのではないかと思ってしまう。もちろんこの種のものは他にもある。例えば有機物の成分を分析するのにliquid chromato- graphy(液クロ)というのがある。この分析装置の技術が進んでhigh performance liquid chromatography(HPLC;高速液クロ)というのが現れた。液クロは本来高速が生命であるから、今はhigh performance のHPLCが殆どで、HPLCが液クロの代名詞になっている。

専門用語には分野が違っても変わらないものと相当変わってしまうものとある。注意してみると、化学と建設では同じモノでも呼び方が違うものが多い。「生石灰」、これは化学の分野では「セイセッカイ」というが、建設分野では「キセッカイ」と呼んでいる。この類のものは見つけようと思うといくらでも見つかる。日本化学会編:文部省学術用語集-化学編や日本規格協会編:JISハンドブック-土木の中で正式に使われている幾つかを下表に書き連ねてみた

英語、等 建設分野の呼び方 化学分野の呼び方
Admixture 混和材(料)、混和剤 添加物
Plasticizer 流動化剤 可塑剤
Aggregate 骨材 凝集体(化学工学骨材)
Mixing 練混ぜ 混練り、混合
Cure (Curing) 養生 硬化(樹脂)、加硫(ゴム)
Quick lime 生石灰(キセッカイ) 生石灰(セイセッカイ)
Test piece 供試体 試験片
Closely 密実に 緊密に
Segregation 分離 偏析*
安定性 Soundness Stability
粒度 Grading Grain size (Particle size)
分離 Segregation Separation
*偏析: 金属〈合金〉が凝固するとき、先に固まる部分と後から固まる部分とで組成が不均一になる現象

建設分野の言葉であろうが、化学分野の言葉であろうが、日本語であるから意味は大体分かるつもりであるが、案外底が深いのかも知れない。広辞苑によると、「混和」は(1)よくまじりあうこと、よくまぜあわすこと、(2)別の所有者に属する2個以上の動産が混合融合して識別し得ないこと、高の醤油を乙の醤油の中に入れるような類、とある。また「添加」はある物に何かをつけ加えること、とある。命名者は「添加物」では単につけ加えるものでしかなく、「混和剤」と命名することにより、完全に一体となるようにまぜ合わすもの、といった深遠な意味を持たせたものであろうか。


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