■亀の子コンクリート考
第四十一回:建築物の短寿命化を促す核家族化 小林 映章

東京都の外れの新興住宅地の話である。ここは私鉄系の不動産会社が30年ほど前に開発したところである。したがって、周囲の家はみなどんなに古くても建築後たかだか30年を経ているだけである。ここは土地の値段が高騰し始める頃から分譲されたため、一戸の敷地は当然狭く、そこに住む家族はほとんどが親と子だけからなる核家族である。近年この住宅地で目に付くことは、いつもどこかで改築が行われていることである。それも大して破損していない家の改築を行っている。建築後25年か30年しか経っていないのにもう改築されている家があるのだから驚かざるを得ない。日本の田舎では、100年以上経つのに健在で、住居としても、農作業の場としてもその役割を果たしている家が幾らでも存在している。

建築後数十年で改築される家が目立つのは上記の住宅地だけでなく日本中至るところ、特に都市やその周辺の住宅地で見られることと思う。これは核家族化と密接な関係があるように思われる。土地を求めて都市郊外に住むと、それから2,30年のうちには子供達が結婚する。結婚した子供達は何処かに住む場所を見つけて家を出るが、やがて親が寿命を迎え、家が空になると子供達の誰かがその家に入る。そのとき使い勝手が悪いとか、イメージがよくないとかいうことで改築するわけである。勿論、なかには他人が購入して取り壊し、新たに建築するものもある。いずれにしても、世代が変わって改築されるものが多くあることは疑いない。このようなことは大家族であればほとんど起こらない。大家族の家では破損がひどくなってどうしようもなくなったところで改築したものである。

核家族化が改築や新築を促す例は、個人住宅に限らず、企業でも見受けられる。先にも触れたが流通業界ではコンビニエンスストアが隆盛を振るっている。多くの子会社を傘下にした大企業を大家族と見れば、コンビニは核家族である。核家族であるコンビニは立地条件のよいところを求めて店舗を新設し、そこでの成績がよければそこで営業を続けるが、悪くなるとあっさりそこから撤退し、新たな店舗を何処かに新設する、成績の悪い古い店をつぶして新しい店を開くことを機動的に、いとも簡単にやってのける。この機動性は大企業にはない。

このようにして見てくると、個人の住居の寿命は核家族化によって短縮されていくし、企業の建家もコンビニのような核家族的企業の台頭により間単に改築され、そこでは長年月の存続を前提にした建築は成り立たない。これからは住宅も店舗も短い期間で改築することを念頭において建築することになろう。

耐久性で、多くの人々が同時に利用しているマンションの場合はどうだろう。木造の個人住宅は取り壊して改築すれば済むことであるが、マンションのような集合住宅は余程よく考えていかないと将来問題になるかも知れない。機動性のある改装を実施できるマンションが生き残れるなんてことになるかも知れない。いずれにしても核家族化が個人住宅に限らず多方面に計り知れない影響を及ぼしている。


前のページへ目次のページへ次のページへ