■私のコンクリート補修物語
第3部 塩害による鉄筋腐食 堀 孝廣

3.8 コンクリートへの塩化物イオンの侵入

 桟橋の劣化具合を見て、これはたいへんな問題だと思ったが、さて対策となると五里夢中でなにをどうしたら良いか全くわからなかった。取敢えずの応急処置は、樹脂モルタルかポリマーセメントモルタルでパッチングし、防水性塗料でコーティングすることであるが、その処置では数年後には、また補修しなければならないという。桟橋のスラブ下なので、工事となると足場だけでも膨大な金額になり、『劣化に応じて、こまめに補修していきましょう。』というわけにもいかない。結局補修工事の方法が決まるまでには、それから数年がかかることになってしまった。

 塩化物イオンによるコンクリート内の鉄筋腐食対策の具体的方法に入る前に、ここで、コンクリート内への塩化物イオンの侵入について考えて見よう。コンクリート内への、塩化物イオンの侵入には、以下の4通りがある。


3.9 海砂の使用

 日本は、雨が多く河川がよく発達し、骨材資源に恵まれた国ではあるが、旺盛なコンクリート需要をまかなうために昭和30年(1955年)頃にはすでに、海砂が使用されていた。日本建築学会では、すでに昭和32年に細骨材中の塩分の許容量をNaCl換算0.01%(JASS 5)と定めている。しかし、この許容量は余りにも厳しく、また一方で適当な分析のための測定機器も整備されていなかったために、九州、四国、中国地方などを中心とした海砂の使用が急増する中で、有名無実化していった。これではいけないということで、昭和50年(1975年)版のJASS 5では、条件付で塩分量(NaCl)を最大細骨材の0.1%まで緩和した。土木学会も昭和49年度版コンクリート標準示方書で細骨材の0.1%以下とした。昭和52年10月の建設省通達では、原則0.04%、条件付きで0.1~0.2%を上限とした。条件としてあげられているのは、防せい剤の使用、スランプ、かぶり厚、水セメント比などである。その後、更に検討が続けられ、昭和61年(1986年)の塩化物総量規制へと引き継がれている。

 当時のデータをいくつか紹介しよう。

 海砂から持込まれる塩化物イオン量は、大阪府のデータでは最大0.287%、沖縄県のデータでは、最大0.23%である。コンクリート1m3中の海砂量を800kg/mとすれば、塩化物イオン量(Cl-)にして2.3kg/m、1.8kg/mとなる。全く洗わない海砂を用いた時、NaCl 0.3%/砂になるという、これは塩化物イオン量にして2.4kg/mとなる。コンクリート練混ぜ水に海水(NaCl 3%)を用いたときの塩化物イオン量は、単位水量180?/mとして3.3kg/mであるから、いかに多くの塩化物イオンが海砂から持込まれたかがわかる。しかも塩化物イオンは、保管状態によっては海砂中で偏在し、極端に高濃度となることがある。実際に、大阪府、広島県などの集合住宅のコンクリート中から、塩化物イオンが4kg/mを超えて検出された例もある。

 山陽新幹線の建設は、新大阪−岡山間が、1969~1970年に、岡山~博多間が1972~74年に行なわれている。この時期は、塩分規制についてほとん殆ど野放しの状態にあった。それが30年が経過して、中性化が20~30mm進み中性化フロントが鉄筋位置まで進み、コンクリート中の塩化物イオン濃度と相俟って、コンクリート内の鉄筋腐食の問題が多発する事態を迎えている。

 現在の海砂の使用状況は、以下の通りである。

 しかし、現在では環境問題から海砂の採取を制限しようとする自治体が増えてきている。以下に西日本各地の海砂採取に関する規制を示す。今後は、海砂使用による塩化物イオンのコンクリート内への侵入は次第に減っていくことであろう。


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