■私のコンクリート補修物語
第3部 塩害による鉄筋腐食 堀 孝廣

3.10 混和剤、セメントからの塩化物イオンの侵入

 1986年の塩化物イオン総量規制が実施される以前は、コンクリート混和剤中にも相当量の塩化物イオンが含まれていた。コンクリート用減水剤は、その成分がセメントの表面を覆い、カルシウムイオンと水との接触を阻害することによって、減水性能を発揮するタイプが多い。リグニンスルホン酸塩系、オキシカルボン酸(グルコン酸など)塩系といったこのタイプの減水剤は、その特性上セメントの凝結を遅延させる。その遅延性を緩和或いは逆に促進性を付与させるために、塩化カルシウムがごく一般的に用いられていたのである。海砂が使用されていない地域で、コンクリート中から塩化物イオンが多く検出されたら、融雪剤を除けばこの促進型減水剤によるものと考えて間違いない。過去にコンクリート用化学混和剤協会が調べた調査結果の一例を示す。

 AE減水剤促進型では、最大0.63kg/m3の塩化物イオン量が持込まれていた。更に、冬場の施工では減水剤とは別に、早く強度を出させるために硬化促進剤として塩化カルシウムが併用されたことも多い。また左官材料の樹脂混和剤中には、樹脂(ポリマーディスパージョン)によるセメントの凝結遅延を抑制するため、塩化カルシウムが混入されていた。また、モルタルを厚付けするためには速硬化させた方が扱いやすいため、塩化カルシウムが混入された。

 現在のコンクリート用化学混和剤中の塩化物イオン量は、JIS A 6204によって、以下のように区分されている。

 セメント中にも量的には少ないが、塩化物イオンが含まれている。これは、セメント原料に粘土を使用するが、粘土中にも天然の塩化物イオンが含まれており、これがセメント中に残存するのである。また、セメント生産時に燃料として、塩ビなどを含んだ廃プラスチックなどを使用すれば、そこからも塩化物イオンは混入する。

 1986年当時セメント協会が調べたセメント中の塩化物イオン量を以下に示す。

 現在、セメント中の塩化物イオン量は、1990年2月の旧建設省通達、及びJIS A 5210によって、0.02%以下と定められている。しかし、近年セメント工場が産業廃棄物の処分場として重要な役割を果たすようになり、さらに多くの廃棄物(下水汚泥、ゴミ焼却灰、燃料として廃油、廃プラスチックなど)の処分が、セメント工場に期待されるようになっていること、及びEN規格においてセメント中の塩化物イオン量は0.1%以下とされていることなどから、セメント中の塩化物イオン規制を緩めようとの動きがある。国土交通省及び(社)日本コンクリート工学協会では、大門正機教授を座長に『コンクリート中の塩分総量規制及びアルカリ骨材反応抑制対策に関する懇談会』を設け、この問題について検討し、2002年9月の報告書でセメント中の塩化物イオン量を0.04%程度まで緩和してもコンクリート中の塩化物イオン総量規制値の0.3kg/m3を満足することができるとの報告をだしている。

 その他練り混ぜ水からも微量の塩化物イオンが混入する。上水道水中の塩化物イオン濃度は0.02%以下と定められており、実際はこの1/10程度の塩化物イオンが含まれていることが多い。また、海岸地帯で地下水を混練水として使用すると、塩化物イオン濃度が0.02%程度となることがある。この場合に単位水量を180kg/m3とすれば、練り混ぜ水から、0.036kg/m3と程の塩化物イオンがコンクリート内に持込まれることになる。

 このように、塩化物イオンは意図的に、或いは無意識の内にコンクリート中に持込まれている。


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