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伊藤教授の土質力学講座
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第7章 斜面の安定
7.5 盛土の安定
盛土というのは、低い土地を横切る鉄道・道路のために築造された土手、
あるいは、貯水するために用いられる土構造物の人工的な丘を総称していう。

7.5.1 鉄道および道路の盛土
鉄道や道路の盛土は、基礎地盤が特に弱くない限り、約10mの高さまでは
築造することができる。盛土が洪水時の被害を受ける恐れのないときは、斜
面勾配は標準として 1.5~2割(水平/垂直=1.5/1~2/1)ぐらいであり、
洪水その他の影響を考慮すると2~3割程度の勾配は必要となる。
道路の盛土は、沈下や、表面に凹凸の生じないように、よく吟味された土
を注意深く締め固めてつくられる。しかし、鉄道の盛土の場合は道床砕石の
敷均しの際、表面の凹凸を多少直すことができるから、それほど締め固めに
ついて神経質にならなくともよい。
高い盛土や、洪水等を受ける恐れのある盛土では、盛土材料について、土
の強さおよび圧縮性を考慮した注意深い解析や設計が必要である。土のせん
断強さ、コンシステンシ−など土質試験の結果を活用して安定解析を行い、
安全な盛土の高さおよび傾斜などを決定する。これらのデ−タから、各種の
土について試的な設計を実施し、工費を検討する。言うまでもなく、最良の
土とは最低の費用で安全な盛土をつくりうるものを意味する。特に、洪水被
害を受ける可能性の多い盛土では、水中で十分吸水させた試料について、せ
ん断試験を行い、最悪の状態における強度を用いることがある。

7.5.2 堤 防
堤防は洪水の期間中、低い土地にある都市、工業地帯および農地を、洪水
から守るための、小さいが、しかし長い土のダムである。道路や鉄道の盛土
と異なり、堤防では沈下の問題はあまり重要な要素でなく、また、ア−スダ
ムとも違って、きわめて軟弱な地盤の上におかれることもありうる。
普通、堤防工事では掘削と大量の土の置き換えが早く安くできる。ドラグ
ラインを使うことが多い(図−7.16参照)。しかしそのため、必ずしも
良質とはいえない堤防付近の土を利用しなければならないこともある。また、
土の締め固めは、ドラグラインの仕事を妨害するので、比較的不十分となる。
盛土材料が貧弱であるとか、締め固めが良くできないとか、基礎地盤が軟弱
であるなどの理由によって、堤防は非常にゆるい傾斜(外のり3~6割、内
のり2~3割)でつくられることが多い。この、勾配はしばしば経験で決め
られる。

敷地が制限され、ゆるい傾斜の使えない高い堤防、あるいはごくせまい面
積を守る堤防は、土質試験と安定解析にもとづいて入念に設計されなければ
ならない。このような場合には、土を十分に締め固め、石張りなどの、のり
面保護が必要であるが、傾斜を急にとることによって土量の節約ができるか
ら、ある程度、工費の増加を補ってくれる。

7.5.3 ア−スダム
ア−スダムの設計は、高度に専門化した技術の分野であるから、くわしく
は専門書を見ることにして、ここでは、主として土質工学的な観点からなが
めてみたい。ダムの破壊は、人命・財産に膨大な被害を与えるので、できる
限の基礎地盤調査・土質試験を実施した後、熟練した技術者によって入念な
設計がされなければならない。過去にも多くのア−スダムの破壊があったが、
特に10m~25mの高さのものが多かった。成功したア−スダムの設計は、次
の3点に対する配慮が十分なされていたと考えてよい。すなわち、(1)水
理的設計、(2)構造的設計、(3)基礎地盤の設計である。
水理学的に、ア−スダムとその基礎地盤は、パイピイングのような透水性
浸食に対して安全で、かつ貯水池としての機能を保つために多量の漏水があ
ってはならない。透水性の浸食は、ア−スダム破壊の重要な原因であり、そ
れを防ぐための万全の設備を作らねばならない。それに比べると、漏水量は、
普通考えるほど重要なものではない。特に洪水防御型のダムでは、通常、流
量の10~20%程度の漏水は、それほど大きな問題ではない。
ア−スダムとその基礎地盤は、構造的に、最悪の状態でも、十分な安全さ
で、堤体に働く水圧とその自重を支えるよう設計されなければならない。盛
土については、他の土構造物と同じように安定解析をするが、安全率は幾分
高目に取る。沈下は、ダム内の暗きょに被害を与えたり、透水性浸食の原因
になるようなクラックをひき起こすほど大きくない限り、そう問題にしない。
ア−スダムの設計は基礎地盤の調査から始まる(図−7.17)。物理地
下探査およびボ−リングなどによって地盤の地質を知り、さらに、現場透水
試験によって透水性を調査する。基盤材料の強度は、各岩層および各土層か
ら採取した試料について、現地の間隙水圧を考えた室内試験を行う。また、
堤体に使用する土質材料は、締め固めた状態の透水係数とその利用可能量に
よって、いくつかのグル−プにまとめられる。各グル−プの土は、それぞれ
の締め固め密度について、飽和状態および各間隙水圧状態の強度を決めるた
めに、せん断試験を行う。ついで、これらのデ−タを用いた試的設計が行わ
れる。

図−7.18は、ア−スダムによく使われる代表的断面を示している。
(a)均一型ア−スダム・・・・ここに用いられる土は、約90%以上が同じ材料
である(図−7.18(a))。
(b)コア型ア−スダム・・・・漏水を遮断するため水密性の粘土コア、あるい
は止水矢板が透水性の表土を取り除いて設置されている(図−7.18(b))


均一型の断面は、盛土材料が飽和によってそれほど強度低下を起こさず、
透水性が比較的低い土の場合に適している。粘土混じり砂、ある種のシルト
および塑性の低い粘土がそれである。コア型の断面は、透水性の低い土が得
難く、透水度の中位の土が大量に利用できる場合に用いられる。吸水しても
膨潤によってクラックが生じないようなシルト、粘土なら、ほとんどコア材
料として使用できる。不透水性の土が利用できない場合、止水矢板とかコン
クリ−トのコアを用いることもある。しかしコンクリ−トは、土に比較する
と剛性であるから、含水状況による土の変形に追従できず、クラックを生ず
ることがあるので好ましくない。もし基盤が非常に透水性であると、それを
はいで、コアを深部までのばす方法が取られる。しかし、コアですべての基
礎透水を防ぐという訳にはゆかない、代表的なア−スダムの上流側斜面の勾
配は2.5~3割で、下流側の勾配は2~2.5割が、よく用いられる。
予備設計の断面について流線網を描き、パイピングその他の可能性を検討
するため、透水解析をする。これを用いて、浸透圧や中立応力を考慮した堤
体および安定解析を実施し、上流斜面および下流斜面の安定を検討する。上
流斜面の最も危険な状態は、貯水位が突然低下する場合であり、下流斜面で
は最高の貯水位になった場合である。堤体や基盤は斜面ブロックの安定の所
で述べた方法を用いて、水平方向のすべりに対する安全を検討する。もし安
定解析の結果、不都合な点が発見されれば改訂する。また、波浪浸食から堤
体を守るため、上流側斜面にあらい石をのせ、下流側斜面は流出浸食に備え
て芝生その他で覆う。

7.5.4 盛土の基礎
盛土の破壊は、その基盤が悪いために起こることも多い。盛土の下の基盤
が貧弱であるため。入念な施工にもかかわらず、工事中あるいは施工直後に
破壊した例が知られている。
盛土の下に厚い軟弱層がある場合、もしその厚さが盛土底部の幅の1/2
以上であれば、この安定解析は支持力に関する式を使う。軟弱層が盛つち手
底部幅の1/2以下のときには、すべり破壊の可能性を円弧解析による試行
法で検討する。軟弱層の厚さが高々2mくらいであるなら盛土予定の下を掘
削して、良質の土で置き換えるのがよい。6~7mくらいに厚くなれば、図
−7.19のような爆破工法によって、盛土の軟弱な土を移動させるのも良
い方法である。図のようにダイナマイトを盛土の下に装填し、内側の火薬は
外側の火薬よりわずかに遅らせて爆破させる。最初の爆破は盛土位置の側面
から土を移動させ、第2番目の爆破は、盛土下の軟弱土を移動させて、盛土
をその位置に落ち着かせる。この方法は多くの場合に有効であるが、熟練し
た技術者を必要とする。このほか軟弱層に与える応力をやわらげる広い面積
の軽量盛土や、軟弱層の圧密を促進させるサンドパイルのような排水口の設
置なども効果がある。

有機質シルト、および有機質粘土のような圧縮性の大きい土層の上に作ら
れた盛土は、破壊することは少ないが、沈下量が大きく盛土の状態が悪化す
る。また道路では、しばしば不規則な沈下のため路面に凹凸が生ずる。この
場合も圧縮性土層の掘削を行なう置換え工法ならびに施行前の圧密を実施す
るとよい。
また、薄い砂質層が盛土の下にあって、そこで間隙水圧が上がると何の前
ぶれもなしに突然破壊することがあり、盛土は真中に圧縮した部分を残した
まま、全断面が外側へ移動する。水圧さえ十分に上昇すれば、この形の破壊
はいつでも起こる。盛土工事の不連続な砂質盛土、およびシルト質盛土内の
間隙水圧の上昇時、または工事完成後のア−スダムにおける高貯水時などに
は、このような危険が考えられる。不連続な砂層や、シルト層の広さを決定
するのが困難であるから、その解析もまた難しいが、一般には透水層と考え
られる部分に適宜、排水孔を設置してこの種の破壊を予防する。

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