■亀の子コンクリート考
第三回:プラスチックはコンクリートの補強に使えないか 小林 映章

コンクリートは圧縮強度に比して引張り強度や曲げ強度が著しく小さいため、構造用コンクリートの場合、引張り応力や曲げ応力が生じる部分では適当な材料による補強が行われる。よく知られているように、この補強には鋼材が使用されている。鋼材が使用される理由は、

  1. 鋼は引張り応力や曲げ応力対して極めて強力である。

  2.     鋼の引張り強度: 4000~11000 kgf/cm2
  3. 熱膨張係数がコンクリートの熱膨張係数にほぼ等しい。

  4.     鋼::       12×10-6/℃
        コンクリート: 6~16×10-6/℃
  5. コンクリートのアルカリ性に耐性があり、アルカリにより酸化から保護される。
  6. 降伏した後も破断するまでに大きな変形能力を保持している。
  7. 表面エネルギーがコンクリートに近く、密着性がよい。
 上述の鋼の素晴らしい性能に対比してプラスチックの性能を考えてみよう。
  1. 引張りや曲げに対する強度はコンクリートの約10倍程度で、鋼には及ばないが、十分補強性能を持っている。
  2. プラスチックの熱膨張係数は5~15×10-5/℃でコンクリートよりも1桁程度大きい。したがって、プラスチックはそのままではコンクリートの補強に供し得ない。
  3. コンクリートのアルカリ性に対して大部分のプラスチックは強く、さらに耐酸化性の大きいものが多い。プラスチックの特徴の1つはこの耐酸耐アルカリ性である。
  4. テフロン、ナイロンのように破断するまでの変形能力の大きいものもあるが、大部分は降伏後すぐ破断する。
  5. 耐酸耐アルカリ性などに優れたプラスチックの大部分は表面エネルギーがコンクリートよりもかなり小さく、コンクリートとの接着性に劣る。しかし比較的コンクリートに近いものもある。
さて、鋼の最大の問題は酸化に弱いことで、酸化しやすい場所に曝される恐れがあるときは、表面にメッキを施すとか樹脂を塗布するなどの処置が必要である。しかしメッキやコーティング膜はすぐ傷つく心配がある。プラスチックはその点有利である。コンクリートの補強にビニロン繊維などがすでに使用されているが、プラスチック繊維をコンクリートの熱膨張係数に近づけた適当なマトリックス中に閉じ込めて使う等の工夫が化学技術者によって為されることが期待される。特に透水コンクリートのように雨水などが内部に浸透するように作られたコンクリートが今後普及する可能性があり、このようなコンクリートの補強に供し得るプラスチック補強材が開発されることを願っている。


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