■亀の子コンクリート考
第三十ニ回:エコーコンクリート 小林 映章

近年エコーコンクリート(ecological concrete)に対する期待が著しく高まってきた。環境に優しいコンクリートがほしいという要望であれば、大変荷は重いが応えがいがある要望である。しかし、このエコーコンクリートは大分趣を異にしているようである。

ここ50年くらいを振り返ってみると、我々の健康や生活に対して際立った貢献をしてくれると考えられた新製品が幾つか開発されてきた。誰にも馴染みのある物に、ペニシリン、DDT、PCB、サランラップ、フロン等々といったものがある。

ペニシリンの出現は、そのものの細菌感染に対する治療効果は言うまでもなく、その後の多数の抗生物質の開発につながり、感染症に対する人類の恐怖を取り除いてくれたが、投与を続けるとショックを起こす人が続出して余り使われないようになった。また、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)も終戦直後の虱退治で有名なように、殺虫力が強く、効果が持続するが、生体内で分解し難く、そのため環境汚染や慢性毒性が認められて、DDTと同様にに優れた殺虫剤とされたBHC(ベンゼンヘキサクロライド)と共に使用禁止となった。

PCB(ポリクロロビフェニル)は高耐熱、不燃性で、化学的に安定、電気絶縁性大ということで、トランスオイルその他工業上の媒体として多量に使用されたが、その耐微生物性や物理的安定性のために地球上にいつまでも残留し、生物連鎖を経て人間に入ると奇形を生むなどの害を引き起こし、さらに分解温度以上ではダイオキシンを生成するなどの問題が起きている。また、サランラップ(ポリ塩化ビニリデン)は生鮮食品を保護して腐敗から守るなどの優れた効果があるが、これも燃すとダイオキシンを生成することが問題視され、最近は敬遠されている。

フロン(クロロフルオロカーボン)は加圧で簡単に液化する、不燃性、無毒性であるということで、冷凍機の熱媒体や半導体ウェーハの洗浄剤等として広く利用されてきたが、極めて不活性・安定であるがために、空中に散逸したものがそのまま成層圏まで上り、太陽からの紫外線で分解されてClを発生し、それがオゾン層を破壊することで大問題になっている。

さて、環境にやさしいということになると、ヒトだけではなくあらゆる生物に対してやさしくなければならないが、フロンはまさしくこのような物質と考えられ、生物に全く無害で、我々の日常生活に対しても、また工業上も極めて有用で、有益な人工物質の雄とされていた。このような物質でも上記のようなとんでもない落とし穴があったわけである。

さて、エコーコンクリートに帰るが、この名はコンクリートそのもの自体が環境にやさしいことを意味していないことに違和感を覚える。このエコーは我々の社会が排出する厄介物の廃棄物をその内部に抱え込んでくれることに対して命名されたもので、頭脳的な命名だとは思うが、一般の人々が本当に文字通りエコロジカルだと勘違いしたら問題である。上記のように、地球上の生物に対して無限の恩恵を与えてくれると考えられていたものでも、実はとんでもない有害物質だったというようなものが沢山あるわけで、地球上になかったものを大量に製造するときにはそれ相当の対応が必要である。廃棄物を抱え込んで一見きれいな環境を作ってくれたように見えたからといって、エコーと名付けるのには頭を傾げないわけにはいかない。有用な廃棄物を利用すること自体は非常に大切なことで、今後ますます力を入れなければならないことであるが、そのことをはっきりさせて行うべきである。


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