■私のコンクリート補修物語
第01回:中性化その1 堀 孝廣

今から25年以上前のことになるが、入社したての2年間は分析研究室でX線回折とか透過型、或いは走査型電子顕微鏡などを使って、無機構造解析の仕事をしていた。
しかしどうも性格が大雑把らしいと見抜かれて、シリカゾル、アルミナゾルといった無機酸化物ゾルの用途開発のグループに配転された。ここでしばらく、無機質塗料の研究を進めていた。
この仕事の中で初めて建材関係及び補修の仕事に携わることになった。

当時はどこのオフィスもタバコの煙でもうもうとしており、部屋の壁・天井がすぐ黄ばんで汚れてしまっていた。
そこで、数年に一度塗り替えられるわけだが、室内なので少しでも明るくしようと、概ね水性の白色系塗料が塗られることが多かった。
しかし、タバコのヤニ、ニコチンなどが下地から染み出してきて、色むらとなりクレームになることが多かった。
そこで、このタバコのヤニ、或いは木部から滲みだしてくるリグニン質のブリードを止めることが私に与えられた課題の一つであった。

これらの汚染物質の大半は陰イオンに帯電しているので、反対の陽イオン性の物質を下地処理として使い吸着してしまおうと考え、陽イオンゾルであるアルミナゾルや酸コロイドメラミンを使った下地処理材の開発を進めた。
この製品は、25年を経ても年に数トンと僅かではあるが販売されている。
今でも、自分で作ったものが初めて世の中に出るということに感激したのを覚えている。

さて、余談が長くなってしまったが、たしか1970年代の後半のことと思うが、ある時いきなり代役として住宅公団の中性化委員会なるものに出席するはめになった。
座長は東大の岸谷先生、委員としては建研の友澤先生、日大の笠井先生、清水建設の森永博士、竹中工務店の嵩博士、小野田セメントの工藤博士など、当時の建築学会の大御所が顔を揃えていた。 なにやら、コンクリートの中性化が予想を上回るスピードで進んでいるという。


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