■私のコンクリート補修物語
第04回:中性化試験その1 堀 孝廣

さて、住宅公団の中性化委員会での当社の分担は、中性化したコンクリートのアリカリ性の回復であった。 そこで、先ず中性化したコンクリートを作ることから始めた。 コンクリートを作るといっても全くコンクリートの知識を持ち合わせていなかったので、別セクションで減水剤を開発していたグループに、コンクリートの圧縮強度試験用供試体と一緒に作製してもらった。 すなわち、W/C=0.6、10φ×20cmのコンクリートを、打設の翌日脱型し28日目まで20℃の水中で養生してもらった。

中性化は、オープンドラム(上のふたの部分がすっぽり取外せ、ふたをする時はふたをかぶせた後バンドで締める。ふたの部分にゴムパッキンが入っていて、1.5気圧程度までは耐えることができる)に、試験体をびっちり詰め、下から炭酸ガスを流し上部に空けた小さな穴からブローさせ、内部は炭酸ガスで充満させる方法を採った。

さて、炭酸ガスを流して1週間程経ったので、中のコンクリートを取出し圧縮試験機で割裂した面に、フェノールフタレイン液を吹付けて見た。 ところが、全面真っ赤なのである。 中性化の判定には、フェノールフタレインをエタノール90%、水10%の溶媒に1%溶かせばいいと本に書いたのを読み、そのとおり作製したので誤りはないはずであった。

そこで仕方なく、再度ドラム缶に試験体を戻し、中性化を継続した。 1ヶ月後再度試験体を取出し、フェノールフタレイン液を吹付けた。 結果は1週間目と同じ、かろうじてコンクリート表面のみが、フェノールフタレイン液を吹付けても赤色にならず、中性化していた。 しかし、その深さは表面から1mmにも満たないものであった。 予定では、空気中の炭酸ガス濃度は約0.1%、ドラム缶の中は100%であるから、約千倍の促進条件となり3日で1cm程度中性化が進むはずであった。 やむなく試験を中断し、果たしてフェノールフタレイン液が中性化の判定に適しているのかどうかを確認することとした。

研究所の土留め用コンクリートの一部をハンマーではつりとり、フェノールフタレイン液をかけてみた。 そうすると、ものの見事に表面より約1cmを残して内部は赤褐色に着色した。 研究所ができて約10年、土留めはその1,2年前にできているとするとほぼ計算どおり中性化が進んでいることがわかった。 また他のpH指示薬、例えばチモールブルー、メチルオレンジ、メチルレッドなどどの指示薬を使っても、中性化深さの測定には大差なく、色合いがはっきりしており、中性化領域と未中性化領域の区別が明確であることから、フェノールフタレインで充分であることがわかった。

さていろんなモルタル、コンクリートにフェノールフタレインを吹付けて遊んでいるうちに、60℃の恒温乾燥機中に放置されていたモルタルの中性化が異常に進んでいることに気がついた。5φ×10cmのモルタルで、アイスキャンディのステッキのように、中心部5mmほどがフェノールフタレイン液で色が着いたのみであった。 このモルタルは、減水剤を開発していたグループが蒸気養生のために入れたが、置き忘れられ蒸気を切ったまま半年程放置されていたものであった。


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