■私のコンクリート補修物語
第2部 アルカリ骨材反応 堀 孝廣

2.11 アルカリ骨材反応の現状

 本節をもって、アルカリ骨材反応に関しては終了とする。アルカリ骨材反応は、中性化問題に比べ反応そのものも未解明な部分が多く、今後に多くの研究課題を残している。

 1986年の建設省通達によって、以下の対策が打ち出され(ア)ないし(イ)~(エ)のいづれかの対策、また必要に応じ塩分の浸透を防止するための防水性の仕上げを施すこととされた。

(ア) 無害と判定された骨材を使用する。
(イ) 低アルカリセメントを使用する。
(ウ) アルカリ総量を1m3あたり3kg以下とする。
(エ) 高炉セメントB種、C種、フライアッシュセメントB種、C種を使用する。

 しかし、5節で示したように有害骨材あるいは潜在的に有害である骨材は全国に分布し、安全な骨材だけを選りすぐって使用することなど経済的に現実離れしている。低アルカリセメントは、需要がなく商品化されなかった。アルカリ総量の問題は、高強度コンクリートではセメント量が450kg/m使用されることも少なくなく、セメントから持込まれるアルカリ量は低アルカリセメント並みのアルカリ量0.6%としても2.7kg/mに達し、その他混和剤、水から来るアルカリを考えると3.0kg以内に抑えること困難である。最後の高炉セメントB種、C種、フライアッシュセメントB種、C種の使用は、これらセメントの流通の問題を抱えており、各生コンメーカー、二次製品工場が専用サイロを設けなければ導入できない。外部塩分に曝されるところでは、更に条件が悪く、防水性の仕上材を施せとなっているが、防水性の仕上材は樹脂皮膜タイプとならざるを得ないため透気性が小さいためふくれを生じやすく、そもそも仕上材に頼ること自体が、コンクリートの耐久性と樹脂膜の耐久性を同列に論じる矛盾がある。結局のところ、灰色の骨材を使って、灰色の対策が行われているに過ぎず、潜在的に危険を孕んだ構造物が次々と建設されているのが実態である。

 関東地方で高強度用として評判の高い骨材を用いて、NaCl 4kgと8kgの2水準の塩害対策試験用の供試体を作製した際、8kgの供試体ではアルカリ骨材反応が起きてしまい試験にならないことがあった。この骨材は無害判定になっていたものであるが、条件次第では思わぬ結果を招くことがある。特に高強度コンクリートでは、アルカリ骨材反応の危険性は飛躍的に高まっていることに留意すべきである。

 国土交通省でも、アルカリ骨材反応対策の見直しが検討されており、改正内容に対してパブリックコメントを募集している。以下に改正案を記す。詳しくは国土交通省ホームページを参照のこと。(http://www.mlit.go.jp/kisha/pubcom/pubcomt96_.html)

【改正案】
アルカリ骨材反応抑制対策<土木・建築共通>案

1 .適用範囲
国土交通省が建設する構造物に使用されるコンクリートおよびコンクリート工場製品に適用する。ただし、仮設構造物のように長期の耐久性を期待しなくともよいものは除く。

2 .抑制対策
 構造物に使用するコンクリートは、アルカリ骨材反応を抑制するため、 設計基準強度27N/ mm以下のものについては、2.2 または2.3 の対策(必要に応じて2.1 の対策)をとるものとする。

 設計基準強度30N/mm以上ものについては、骨材のアルカリシリカ反応試験(化学法)を実施し、無害と確認された骨材を使用するか、無害でない場合は2.2 の対策をとるものとする。ただし、高強度コンクリートについては2.1 の対策をとらなければならない。

2.1 安全と認められる骨材の使用
 骨材のアルカリシリカ反応性試験(化学法)の結果で無害と確認された骨材を使用する。ただし、化学法については骨材の種類により取り扱いに注意し使用する。

2.2 抑制効果のある混合セメント等の使用
 JIS R 5211 高炉セメントに適合する高炉セメント[ B 種またはC 種] あるいはJIS R 5213 フライアッシュセメントに適合するフライアッシュセメント[ B 種またはC 種] 、もしくは混和材を混合したセメントでアルカリ骨材反応抑制効果の確認されたものを使用する。

2.3 コンクリート中のアルカリ総量の抑制
 アルカリ量が表示されたポルトランドセメント等を使用し、コンクリート1m3に含まれるアルカリ総量をNa2O 換算で3.0kg 以下にする。

 なお、海水または潮風の影響を受ける地域において、アルカリ骨材反応による損傷が構造物の安全性に重大な影響を及ぼすと考えられる場合(2.1 の対策をとったものは除く) には、塩分の浸透を防止するための塗装等の措置を講ずることが望ましい。

 以上が改正案の中味であるが、先に述べたような理由からこれを徹底させることは容易ではないだろう。また、塩分が海水または潮風に起因するとしているが、実際には融雪剤による塩分の方がはるかに高濃度となり危険性が高い。それでも、新設の場合には対策がとれるだけまだましなのだが、アルカリ骨材反応による被害を受けている構造物の補修対策は、なんら打ち出されていない。

 筆者らは、リチウムを使って何とかアルカリ骨材反応を止めたいということで、悪戦苦闘してきた。1988年に京都で開かれたアルカリ骨材反応に関する第8回国際会議の場で、リチウムの抑制効果に関して発表したが、それを契機として最近ではアメリカを始めとした諸外国でもリチウムに関する発表が多くなってきている。筆者はアルカリ骨材反応と闘うにはリチウムしかないと考えているが、アルカリ骨材反応が皮膚病ではなく、内部疾患であるだけに、補修対策としてはコンクリート内部に如何に効率的にリチウムを供給するかが究極の課題である。広島の大盛コンサルタント、鴻池組の低圧注入工法はその課題を解決するための画期的な曙光と考えている。効果の実証が待たれるところである。

 以上で、アルカリ骨材反応に関する第2章を終了します。独断と勝手な解釈で説明してきましたが、噛み砕いた文章にならず、ここまで読んでいただいた方の辛抱強さに、心から感謝します。また、意見、質問、疑問等がありましたら快く掲載していただいているコンプロネットの意見欄に投稿していただければ、できるかぎり答えていきたいと思います。

 第3章は、塩害による鉄筋腐食の問題を取り上げます。構想が練りあがるまで、一時お休みします。それでは、また。


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