■私のコンクリート補修物語
第4部 防錆剤混和による鉄筋腐食対策 堀 孝廣

4-5 日本における防せい剤多量添加方法の開発−その2

(2) 実験2
 実験1では、コンクリート中の塩化物イオンが高濃度となった時に、腐食速度を小さくする効果については確認できたが、腐食の発生そのものを防止する効果については十分明らかにすることはできなかった。そこで実験2では、防せい剤を添加したコンクリートに外部から塩化物イオンを浸透させて、鉄筋の腐食防止効果を確認することとした。

 腐食の発生は、3節で紹介した銅・硫酸銅電極を用いた自然電極電位の測定から、把握することとした。そのため、コンクリート中に埋込まれた鉄筋一本、一本に、導電性接着剤を使用してリード線を取付けた。

 コンクリート中への塩化物イオンの導入は、試験体を設置した乾燥槽と3%食塩水を満たした塩水タンクとを電磁弁を介して接続し、浸漬と乾燥を繰返した。

 電位の測定は、試験体が湿潤条件でないと正確な値が得られないため、塩水浸漬時に測定した。こうすることによって、10kg以上ある試験体を動かすことがなくなり、労力的にもずいぶんと楽になった。

 試験は適宜試験体を取り出し、塩化物イオンの浸透、電位と鉄筋の発錆面積率などの測定をしながら、1年以上に亘って継続実施した。前節で紹介した自然電極電位と発錆面積率の関係を表したグラフは、この時に得られたものである。鉄筋位置における塩化物イオン濃度と電位変化との関係を示したグラフを以下にしめす。

 水セメント比が60%の試験体についてのみ示したが、50%の試験体についても同様な結果が得られている。鉄筋位置への塩化物イオンの蓄積が進むにつれて、電位が卑(マイナス方向)に変化している。4節の腐食評価方法ところで示したように、−350mVを境界として腐食が発生していることがわかったので、明らかに防せい剤の添加量を増やせば、腐食の発生を遅らせることができるという実験的証明が得られた。

 高濃度塩分下では、モル比1.0が必要であるとの結果はFHWAのY.P.Virmani等の結果と一致するものであった。こうして、日本国内においても外部から塩化物イオンが侵入してくる条件下であっても、鉄筋位置における塩化物イオン量を予測し、亜硝イオン・塩化物イオンのモル比1.0以下となるように防せい剤を添加しておけば良いことが立証できた。


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