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水の話
■水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~
2章 いろいろな水 小林 映章

2.2 処理の異なる水

2.2.3 磁化水

 磁化水とは、磁気処理を施した水のことです。通常、図9に示したように、永久磁石のN極とS極の間をある流速(2m/s以上)で通した水を指します。

 磁化水は特にロシアで盛んに研究されているようです。例えば、硬度の高い水の水垢防止に効果があると云われています (ウ゛エ・イ・クラッセン:水の磁気処理)。しかし、データのばらつきが大きく、信頼性は高くないようです。

 建設分野でも、コンクリートを製造する際に磁場の間を通した水で練り混ぜを行うと圧縮強度の大きいコンクリートが得られたというような話が伝わってきています。

 磁場の間に水を通すと水の性質が変わるということを説明するために、磁気の何らかの作用によって、水のクラスターが細分化されるからである、といったようなことが一部で言われています。すなわち、クラスターが小さくなっているために水の浸透性が増すなどの活性化が起きている、というものです。また、磁気によって引き起こされる電流の作用によって効果が現れるのだ、というような説もあります。

 それでは、水は磁石の間を通るとき、あるいは通るとどんな作用を受けるか考えてみましょう。

(磁石の間を通ると水はどんな作用を受けるか)
 全ての物質は磁場と相互作用をする性質、すなわち磁性をもっています。相互作用の強さや方向に従って、磁場方向に強く引きつけられる強磁性体(ferromagnetics)、弱く引きつけられる常磁性体(paramagnetics)、および弱い反発を示す反磁性体(diamagnetics)に区分されます。水は反磁性体に属しています。反磁性は物質内の電荷が磁場を遮蔽しようとするために生じるもので、水の他に磁気モーメントをもたないイオン結晶や有機物が反磁性を示します。反磁性体は磁石、それも強力な磁石を近づけると幾分反発します。しかし、この磁気に対する性質は非常に弱いので、水分子の場合も、分子そのものが磁気に影響されるということは考え難いことです。もしそのようなことが起きるとすれば、現在医療診断で威力を発揮しているMRIは人体に大きな影響を与え、健康診断には用いることが出来ないことになるでしょう。

 水のいろいろな性質は、熱エネルギーの出し入れを伴って発現することが多いのですが、水に印加された磁場の磁気エネルギーと水の熱運動エネルギーの大小を比較して、例えば、「1T(テスラー;=104ガウス)の磁場のエネルギーは常温の水の熱運動のエネルギーと3桁も違うから云々」、というような議論もありますが、これは余り当を得たものとは云えません。化学反応で云えば、熱反応と光反応を一緒にして反応系に加えられたエネルギーの大小で反応の大小を議論するようなもので、エネルギー源が異なると、エネルギーの大きさが同等でも全く違った反応が起きることが多くあります。詳しい議論をするときには、加えられたエネルギーが物質のどのような状態に作用するかを知る必要があります。

 それはさておき、強い磁場で水を磁化しても、磁場を取り去れば磁化は消えてしまい、水は元の状態に戻ってしまいます。したがって、図9で磁化水といっても、磁石の間を通り過ぎてしまった水分子には磁気的な影響が残っていません。

 水のクラスターが小さくなるという説はどうでしょう。以前に(1.1.2)で述べたように、液体水を表現する有力なモデルの一つによると、水のクラスターは1ps(10-12秒)のオーダーで、生まれたり壊れたりしていますので、仮に磁気作用により水のクラスターが磁場内を通るときに影響を受けたとしても、通り過ぎてしまえば直ちに元通りの状態に戻ってしまいます。

 水が磁気の影響を受けるとして、最も考えやすいのは、溶存イオンの影響です。磁場内を水が流れるとそれに伴って溶存イオンも流れていきます。したがって、発電機の原理と同様にして、磁場内を流れるときに電気が起きます。この電気の作用で水が何らかの変化を受けているのだとも考えられています。水垢防止に磁気処理が有効な場合があるのはこのためではないかと考えている人もいます。

 水垢の問題にしても、磁化水のコンクリート強度に対する効果にしても、データのばらつきが非常に大きいようです。もし磁気が水分子に直接影響を及ぼすのであれば、ばらつきがそれほど大きくないはずです。溶存物質が何らかの影響を受けるのであれば、これも実体はよく分かりませんが、それぞれの水によって種類も濃度も著しく異なるのでばらつきの大きいことがうなずけます。

(磁化水はどんな効力があるか)
 水が磁場の作用を受けたときの変化がはっきりしていないので、水に対する磁気の効果がはっきり言えるものではありませんが、一つだけはっきりしていることは、磁化水の効果について、データの再現性が確認され、学会で認められたものはないということです。溶存イオンの多い、普通の水道水のようなものに強力な磁場を印加すると、僅かながら電気が起きるところまでは科学的ですが、それが「水垢防止になる」、「コンクリートの強度を上げる」、「人の健康によい」等々ということになると、そのまま受け入れるには勇気がいります。

 磁場の作用で水のクラスターが小さくなるという説は、磁場により水が活性状態になるというものですが、これを支持する根拠は明かではありません。水のクラスターが小さくなるからよいのだという説は最も受け入れ難いものです。


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