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水の話
■水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~
3章 水資源 小林 映章

3.1 水資源の現状

3.1.4 森林の水保全機能
—森林の水保全機能により私達は良質の水を、日々同じように入手し得る—
 かつて、尾崎行雄東京市長が東京都の水を確保するために、多摩川上流域の山林を買収して、森林の保全に努めたことは有名です。

 先に、わが国における水資源の問題点として、降水の季節的、時間的偏りが大きく、さらに河川が急峻なため、せっかく降った水も利用されずに海に流れ込んでしまうことを書き記しました。したがって、河川流量をできる限り平準化することが必要になります。この要請に応えるのが森林の水保全機能です。

(水保全機能の中心は)
 水保全機能の中心的役割を果たしているのは森林土壌です。水の浸透性、透水性に優れ、厚い土層(特に腐植土層)を持っている森林が水保全機能の高い森林です。そういった森林は、いわば親水性の分厚いスポンジで被われているといえます。その働きによって雨水を山地に貯え、洪水を抑制し、逆に干天が続いたときには徐々に貯えた水を放出して河川の流量の変化を少なくします。

 山の木を伐採したままに放置しておくと、落ち葉の堆積もなく、表面の有機質を含んだ、水浸透性の土壌が失われて、保水機能が低下します。この観点で眺めますと、近年各地で見られるような、観光目当ての舗装道路を山の頂まで建設するなどは愚の骨頂と云えます。どうしても舗装道路を造るのであれば、完全な透水性舗装にすべきでしょう。

(水保全機能は水量調節だけではない)
 森林の水保全機能は単に河川に流れ出す水の量を調節しているだけではありません。雨水が森林土壌中をゆっくり通る間に、土壌中に含まれている各種イオンや微量元素が水中に溶け込んだり、あるいは逆に水中の各種溶存イオンが土壌に吸着したりして、結果的に一定の組成に調節され、安定化します。雨水中に人体等に危険なあるいは非衛生的な物質が含まれていても、土壌の持つ吸着性能や分解性能により、安全で清浄な水に変わって流れ出してきます。

 都市部に住む人々にとっては、どうせ河川の水は、浄水場を通り、塩素消毒が行われて配水されるのですから、量の確保が最大の関心事ですが、量よりも質に著しい関心を払っている人々もたくさんいます。これに関係して目を引くのは、近年山に木を植える漁師が増えていることです。この活動の背景には、磯焼けを防ごうとする漁師の願いがあります。

【磯焼け: 外海の沿岸の磯で、よく繁茂していた大型海藻類が枯死し、石灰藻類が繁茂して一面に白くなってしまう現象
森林の保全活動を行っている漁協の数: 32漁協(1998年、全国漁業共同組合連合会調べ)】

 磯焼けが、森林の消失に起因する鉄分の減少によるといった説があり、この真偽はともかくとして、漁師が山から流出する水の質に注目して植林をしているわけです。森林の水保全機能は水量の調節とともに水質の保全に極めて重要であることを住民が経験的に悟った結果と云えます。

(森林の保護)
 近年地球温暖化を防止するために、CO2発生量を減少させる運動が国連の場に浮上して推進されています。森林は炭酸同化作用によりCO2を吸収して地球温暖化に貢献すると共に、雨水を保全して良質の水を年中供給してくれるのに役立っています。日本は何か起きると「森林を大切に」と一時声高に叫びますが、実際には国を挙げて森林を保護しようとするような動きはしておりません。戦前の人々であれば、森林の保護、育成に国を挙げて努力した姿を思い出すことでしょう。

 建設業でも森林保護のための仕事というのがそろそろ起きてもよさそうです。


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