■亀の子コンクリート考
第二十一回:コンクリートの補修 小林 映章

阪神・淡路大震災で高速道路の高架橋が倒壊し、それを期に全国の高速道路や新幹線の高架橋の安全性が点検され、危険と認められるものには補強が施された。この点検、補強は極めて速やかに行われ、現在では全国の補強を必要とする主要なものは全て工事が完了している。このすばやい対応は賞賛すべきで、関係機関や工事担当者の方々にはそれら道路や鉄道を利用するものの一人として御礼を申し上げる次第である。

我々は日曜大工で花台や門扉の錆びたヵ所にペンキを塗ることが時々ある。そのときにはまず錆をできるだけ丁寧に掻き落とし、ついで錆止めの下塗りをし、最後に気に入った色のペンキを塗るのが普通である。このようにしないと、一時的には赤錆の生じた醜い鉄骨や鉄板がきれいになったように見えても、一年も経たないうちにまた錆がぽつぽつと出てしまう。このような経験は多くの人がお持ちのことと思う。いくら表面をきれいにしても、内部に欠陥を残したままでは、結局遅かれ速かれ再び修理を余儀なくされることは誰でもよく知っていることである。それを知りながらもたいていの人は時間が無いとか、面倒くさいとかで、場当たり的なことをしがちなものである。

コンクリートの補修はそれが表面であって、汚れがついたとか、コケが生えたとか、あるいは落書きをされたとかいった類のものであれば、門扉のペンキ塗りと同じようなもので、簡単に補修することができるが、そういかない場合は厄介である。コンクリートの欠陥は外部ではなく、内部に発生することが多い。したがって内部をよく診ないと的確に補修することはできない。先の大震災に端を発して全国の高架橋を調べた結果、多くの高架橋で欠陥が見つかり、脚部に鉄板を巻きつける等の補強が行われた。この欠陥を抱えた橋脚に補強が行われたこと自体は当然で異を挟むことは何もないが、いささか気がかりなこともある。コンクリート工学の専門家の多くはコンクリートのケミカルな面には精通していなくても、構造物の強度や耐久性については高度の知識、技能を有しているという理解を一般の人々は持っている。この理解は正しいはずである。

コンクリートを鉄板で補強するということは強度上の心配があるからであろう。優れたコンクリート工学の専門家により設計されたわが国の重要なコンクリート構造物の強度が、構造上に問題があって補強を要するようになったとはとても思えないし、思いたくもない。内部に問題が多いのではなかろうか。内部に問題があるのであれば、外から補強して一件落着というわけにはいかない。

歳をとると骨粗鬆症になる人が増えてくる。この心配があると診断された人はカルシウム分の多い食物をとったり、カルシウムウエハースのような薬用食品を用いて症状が進まないように努力している。骨粗鬆症を体内で治さずに、例えば足をサポーターで保護するというようなことでよしとするとしたら奇異なことである。不幸にして人が骨折をしたら、まずつないでからギブスをはめて固定し、内部で骨がつながるように処置すると共に、骨折しやすい体質であればそれを治すようにいろいろな手だてをこうじるのが普通である。


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