■亀の子コンクリート考
第二十二回:耐久構造物がいっせいに寿命を迎えたら 小林 映章

わが国には高度成長期以来実に膨大な耐久構築物が建造されてきた。しかも経済生長が極めて急速であったためにごく短期間に何百兆円というお金が注ぎ込まれてそれらの構築物が建造されたわけである。小さな国土で世界有数のGNPを何年間も続けたのであるから、その反動で何かが生じることも考えておく必要があろう。

量の増大がある特異点に達すると質的な変化を起こすことはよく知られていることである。化学反応は、ごく一般的に言って、温度が10℃上昇すると反応速度が2倍になる。すなわち反応速度は温度が変化すると指数関数的に増大する。高分子化合物の重合反応で、発熱反応の場合、反応が起きると温度が上昇し、温度が上昇すると反応が速くなり、その結果ある点に達すると爆発的に反応が進行する。アクリル酸のモノマーを少量とって重合させると、温度が余り上昇しないのでゆっくり反応して所定の物が得られるが、大量に反応させると、急激に温度が上昇してあっという間に反応が進行して、ときにはとんでもないものができてしまうことを経験した人も多いと思う。

原子力については誰もが経験するというわけにはいかないが、核分裂にしても核融合にしても核物質がある量を超えてしまうといわゆる臨界点に達し、核爆発を起こす恐れがあることを大方の人はよく知っている。核反応をゆっくり起こすように制御できれば核の平和利用が実現するが、制御を誤れば、あるいは意識的に制御を外せば核爆発を起こす。

自然現象に限らず社会現象でも、ある点を超えると質的な変化が起こる事象は数限りなく存在する。例えば交通渋滞であるが、順調に流れていた自動車が車が増えるに従って徐々に流れが悪くなり、ある密度に達するとほんの数台の増加で流れが止まり、ひどい渋滞が生じてしまう。

経済成長が度を越すとその反動が大きいことは今度のバブルの崩壊による不況で誰もが思い知らされたところである。かつての神武景気や岩戸景気の頃は製造業が活気を呈することで経済が膨張したが、バブル景気は土地の価格の上昇というまさに根無し草によって景気が上昇したもので、根無し草だけに膨張速度は異常であっという間に崩壊の臨界点に達したものである。

コンクリート構造物はきちんと造れば100年150年の耐久性がある構造物であるが、これも100年150年後には必ず寿命がくるのは避けられない。地球の自然環境を考えれば、何物によらず寿命がくるということはよいことである。コンクリートも例外ではない。しかしここで問題はコンクリートのような耐久構造物の寿命がある適当な量ずつ次々とやってくることは地球環境からみても、経済活動からみても歓迎べきことと思われるが、これがバブル期に構築されたものがある時期にいっせいに寿命が尽きて再建というようなことになると大変である。急激な崩壊の影響は建設による活況が恨めしいほど大きいかも知れない。


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