■亀の子コンクリート考
第二十三回:物の壊れかたを考えてみると 小林 映章

物の破壊には、ガラスのように砕け散る脆性破壊と、金属のようにぐにゃりと曲がる延性破壊がある。コンクリートはガラスのような脆性破壊をする物質であり、この脆さを補うために鉄筋を入れている。

さてコンクリートの破壊であるが、コンクリートは乾燥状態と水分を含んでいるときとで壊れやすさが異なる。よく知られているように、乾燥しているコンクリートに水分を浸透させると強度が低下する。乾燥状態と湿潤状態でコンクリートの強度が異なる原因については次のような幾つかの説が提案されている。すなわち、

(1)乾燥収縮によりセメントペーストが緻密になる、(2)乾燥収縮により骨材によって拘束されていたセメントペーストに引張り応力が発生する、(3)飽水コンクリートは、圧縮により空隙内に静水圧が発生して、内部引っ張り応力が大きくなる、(4)水が潤滑剤の作用をする、(5)乾燥によって端面および内部の摩擦が増加する、(6)乾燥によりセメントゲル粒子間の水層が薄くなり、ファンデルワールス力が増大する、(7)SiとOとの結合は水分の存在によりOH基が取り込まれて緩む、(8)水の付着により表面エネルギーが低下する、等々である。

ところで、脆性破壊を起こす物質では、あるヵ所にクラックが発生すると、応力はクラック先端に集中してクラック先端の化学結合が切れ、さらにその先の化学結合に応力が集中して結合が切れる、というように化学結合の切断が連鎖的に進行する。一方、延性破壊を起こす物質では、クラックに力を加えてもクラックが成長しないで、V字型のクラックの先端が丸くなる(鈍化する)。これは、クラック先端につながる2つの面の化学結合が切れても、それによって新しいクラックが形成されず、2つの面に並んでいた原子は、互いに横滑りして応力を開放し、両面の原子間に新しい化学結合が生まれて安定するからである。あるヵ所の化学結合が切れたときに、それに応じて新しい結合が形成される性質は脆性破壊を起こす物質にも備わっているが、ただその性質が著しく弱いだけと考えるべきであろう。

板ガラスを切断するときに、前もってガラス切りで浅い傷を付けておくと、その傷に沿って簡単に割ることができる。これは引っかき傷の底(クラックの端)にある化学結合に応力が集中して割れやすくなるためである。この際、引っ掻き傷が水で濡れているとさらに割れやすくなる。

界面の性質を表す熱力学的基本因子は表面(又は界面)エネルギーである。液体と接している固体の表面エネルギーは、次のように

(固体の表面エネルギー)=(純固体の表面エネルギー)-(液体の表面エネルギー)

で表される。表面エネルギーが大きいほど結合を作る余力が大きいので、クラックにもとづいて化学結合の切断が生じたとき、上記のような新しい結合の形成されやすさは、表面エネルギーが大きいほど大きい。したがって、乾燥しているコンクリートに比して、水で濡れているコンクリートの方が壊れやすい、すなわち、強度が小さいということになる。


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