■私のコンクリート補修物語
第5部 防錆剤を用いたコンクリート補修 堀 孝廣

5-5 モルタル中からコンクリート中へのイオンの拡散(2)

シュミレーション3 −境界面の拡散係数(D2)とイオンの拡散
 シュミレーション1、2では、モルタルとコンクリートは一体のものとして取扱ったが、境界面での拡散係数は当然小さくなると考えられるので、その影響について検討した。

 上記シミュレーションから、モルタルとコンクリートの境界面の拡散係数がコンクリート内部の拡散係数の1/1000では拡散は進まないが、1/100以上では拡散によるイオンの移動が進み、1/10では拡散の障害になっていないように見える。上記シミュレーションは5年後の状態を表したものだが、より短期間ではこの傾向はもっと顕著に表れ、より長期にわたれば影響はマイルドなものとなる。モルタルが浮いていれば、当然のことながら拡散はストップする。

 境界面の拡散係数を実際に測定することはできないが、一つの目安として接着力を測定する方法がある。コンクリートの引張り強度は、大まかに圧縮強度の1/10であるから、モルタルの接着強度が同等レベルであるか、試験時の破断面がコンクリート内部であれば、境界面での接合はきちんとできており、境界面でのイオン拡散は、コンクリート内部における拡散速度とそれ程大きな違いはないと考えている。

シュミレーション4 モルタルの塗厚
 最後に、モルタル塗厚の影響について、検証してみよう。

 上記の図から、モルタルの塗厚を大きくとると亜硝酸イオンの供給量を豊富にすることができるので、拡散に有利であることがわかる。但し、モルタルの拡散係数が小さくなるとモルタル中でのイオンの移動に時間がかかり、塗厚を大きくとっても有効に作用しないことも表している。

 シュミレーション試験の妥当性については、実験データとの照合によって検証しなければならないが、耐久性を議論するには膨大なコンクリート実験と長期の時間を要することが多く、シュミレーション試験の活用は今後ともおおいに役立っていくものと思われる。


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