■私のコンクリート補修物語
第5部 防錆剤を用いたコンクリート補修 堀 孝廣

5-6 防せい効果実証実験その2

 次に腐食抑制効果について紹介しよう。この実験では、試験体内の全ての鉄筋にリード線を取付け、随時電位測定を行なっている。測定する1日前に湿布で試験体を包み、充分な湿潤状態を確保した上で、銅硫酸銅電極を用いて測定したデータである。




 塩化物イオン0.3kg/mと塩分を殆ど含まない場合には、モルタル被覆のない試験体でかぶり厚さが1cmの鉄筋のみ電位が低下してきている。これは、中性化が8.5mmと進んできている影響と考えられる。

 塩化物イオン1.5kg/mと洗っていない海砂程度の塩化物イオンを含む試験体の場合には、無被覆試験体ではかぶり厚さが1~2cmの鉄筋の電位は低下し、かぶり厚さ3~4cmの鉄筋についても徐々に低下傾向を示している。亜硝酸リチウムを含有しないポリマーセメントモルタル5mm被覆の場合についても、かぶり厚さ1cmの鉄筋の電位は低下してきている。亜硝酸リチウムを含有させたモルタルの場合には、図にはLPCM20 2mm被覆の場合のみしか表示していないが、すべての試験体でかぶり厚さが1cmの場合であっても電位の低下は見られなかった。

 4.0kg/mの塩化物イオンを含む場合には、無被覆の試験体ではかぶり厚さに関係なく全ての鉄筋において、電位は低下傾向(卑への動き)を示した。亜硝酸リチウムを含有しないポリマーセメントモルタルで被覆した試験体においても、無被覆の場合と同じくかぶり厚さにかかわらず全ての鉄筋の電位が低下した。一方、亜硝酸リチウムを含むモルタルで被覆した試験体の場合では、LPCM20の2mmではかぶり厚さにかかわらず電位の低下傾向が表れたが、LPCM10の5mm、10mm、LPCM20の5mmで被覆した試験体では全ての鉄筋で電位の低下傾向は認められなかった。塩化物イオン量が4.0kg/mと多くなった時に、LPCM20の2mmでは亜硝酸イオン量が不足していたものと思われる。

 次に、塩化物イオン量が4.0kg/mの試験体の屋外暴露10年間の電位変化を見てみよう。





 次に、温室暴露試験体から鉄筋を取出し腐食減量を測定した結果を紹介しよう。


 腐食減量の測定結果も概ね電位変化を裏付ける結果となっている。無被覆の試験体では塩化物イオンが1.5kg/mから4.0kg/mに上がると、かぶり厚さに関係なく腐食が進んでいる。また、塩化物イオンが高い状態では、ポリマーセメントモルタルの被覆では、鉄筋の腐食は抑えられないことも明白である。亜硝酸リチウム含有モルタル(LPCM)による被覆は、塩化物イオンを4.0kg/mと高い濃度で含む場合においても鉄筋腐食の抑制に有効であることが認められた。但し、LPCMで被覆した試験体においても暴露初期の段階から少量の腐食が見られるのは、充分な量の亜硝酸リチウムがコンクリート内に浸透・拡散する以前に腐食が進んだことを表しており、実構造物の補修に適用するにあたっては、塩化物イオン量とかぶり厚さ考慮が必要であることを示している。

 以上は、塩化物イオンを含んだコンクリート内での亜硝酸リチウム含有モルタル被覆による鉄筋の腐食抑制効果について検証したものであるが、中性化したコンクリート内の鉄筋についても、同様な実験が田島ルーフィングの福田氏と建築研究所から宇都宮大学に異動された桝田教授によって行なわれ、やはり亜硝酸リチウムの腐食抑制効果が確認されている。尚、その時の実験では、亜硝酸リチウム水溶液塗布工法との比較が行なわれ、水溶液塗布に比較し、亜硝酸リチウム含有モルタル或いはペーストとして塗布することの有効性が検証されている。〔福田他,中性化した鉄筋コンクリートの補修工法に関する研究,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.19,№1,pp.1153-1158,1997〕


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