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水の話
■水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~
1章 水の構造と性質 小林 映章

1.2 水の性質

1.2.7 水の色
—水は無色透明だからといってきれいだとは云えない—
 水の色は素人目にはきれいさの尺度になりそうです。昔からきれいな水を表現するのに「青く澄んだ水」という言葉が使われています。黒く濁り、中を泳いでいる鯉の姿がかすかに見えるような川や堀や池の水は誰がみてもきれいとは云えません。それでは水は無色透明なら本当にきれいでしょうか。それを言う前に色について少し復習してみましょう。

(色とは)
 太陽から降り注ぐ光のうち、ヒトの眼に見えるのは波長が凡そ380nmから780nmの光でこの範囲の光を私達は可視光線と呼び、可視光線が太陽から一様にきているときこれを白色光と呼んでいます。可視光線はいろいろな色の光に分けることができます。色はヒトの感覚により生じるもので、分類の仕方も様々ですが、その一例を図7に示しました。図は光の波長と色相の関係を示したもので、色相環(color circle)と呼ばれています。図で数字は光の波長(nm)を表します。また、色相環中に表示された


色は光の色を表します。色相環で対角に存在する色は補色(又は余色)の関係にあると云います。よく知られているように種々の波長の光を混合する(加法混色という)と明るくなります。一方いろいろの色素を混合する(減法混色という)と暗くなります。2つの色光を加法した結果が白色となれば、元の2色は互いに補色であると云います。減法混色では、2色(例えば絵の具の2色)を混合して灰色又は黒になるような対を補色と云います。このような関係は色相環を参考にするとよくわかります。

(水の色は何故青い、きれいな深い海は黒く見える)
 よく水の色が青いのは空の青さが映っているからだと云う人がいますが、これは誤りです。光の色と絵の具やペンキをはじめとする物体の色は本質的には同じですが、内容は異なります。湖や海の色が青緑色に見えるのは、水分子が弱いけれども赤色付近の光(660nmと605nm)を吸収するからです。赤色光が吸収されると、その補色である青緑色光が残り(図7色相環参照)、それが水中のごみやプランクトンなどの微小物質に散乱されて私たちの目に入ってきます。 【空が青いのは太陽の光がごく僅かですが大気中の微粒子で散乱されるからです。散乱の強さは光の波長の4乗に反比例するので波長の短い青色光ほど四方八方に散乱され易いことになります。その散乱光の一部が私たちの目に入ってくるので空は青色に見えます。】

 それなら青色の光が散乱されるような物質が含まれていない、非常に透明度の高い水ではどうでしょうか。例えば、浮遊粒子が少なく透明度の高い、深い海水中に入射した光は、水分子に吸収された赤色光は勿論のこと、どの波長の光も水中深く射し込んでほとんど帰ってきませんから、黒く見えることになります。黒潮が黒く見えるのは非常に透明度が高く微小物質をあまり含まないからです。北方からくる栄養分が多く、プランクトンを豊富に含む親潮は一見したところ黒潮よりきれいな青色に見えます。黒潮の黒色は墨で黒く着色した水の黒色とは明らかに違います。

(無色透明でもきれいとは限らない)
 海水は塩分を約3%含んでいますが、ごみやプランクトンが含まれていない限り透明で非常にきれいに見えます。また山から流れ出してくる地下水、清水は無色透明できれいなものの代名詞になっています。しかし一般にこの中にはかなりの量の無機塩類が含まれています。色素で着色され、石鹸で泡だっている水は如何にも汚く見えますが、水銀やトリクレンで汚染された無色透明な水はきれいに見えます。色素で少しくらい着色していても、使用上は何の差支えもなくきれいな水として扱える場合もあります。コンクリートを練り混ぜる水は微量の染料や顔料で着色していても全く問題がありませんが、いくら無色透明でも、多量のカルシウム塩やマグネシウム塩を含んでいれば影響が出てきます。

 水は他に例がないくらい多くの物質を溶かし、しかも外観では何がどれくらい溶けているか全く分からないだけに注意する必要があります。一般市民が外観で騒ぐのは止むを得ませんが、技術者は内容に注意することが求められます。


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