CON-PRO.NET
水の話
■水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~
1章 水の構造と性質 小林 映章

1.2 水の性質

1.2.6 水の注目すべき特性(5) —溶解力—
—水は他の物質に比べて非常に多くのものを溶かす—
(気体の溶解)
 水はいろいろな物質を溶かす力があります。雨は大気中の気体、すなわち、大気そのものや二酸化炭素、硫黄化合物、窒素化合物といったものを溶かし込んでいます。水をどんなにきれいにしても、大気に晒しておく限りこのような気体が多量に溶け込みます。二酸化炭素CO2は水に溶けやすく、常温常圧で1容の水に約1容の二酸化炭素が溶けます。大気中には二酸化炭素が約0.03vol%含まれており、これが水に溶け込んで炭酸が生成されます。したがって、普通の水は弱い炭酸水であって若干酸性を示しています。

 炭酸よりももっと強力な酸が大気中の窒素酸化物や硫黄酸化物の溶解により生じることは、つい最近私達の経験したところです。石炭燃焼炉から排出される上記酸化物が雨に溶けて酸性雨として地上に降りそそぎ、大理石の建物やコンクリート建造物に脅威を与えたことは私達の記憶に新しいところです。このような脅威はまた何時やってくるかしれません。

(有機物の溶解)
 第2次大戦後発展した合成高分子は別として、有機物の多くは水に溶解するか、微生物等の作用を受けて水に溶ける形に変化します。実際私達の近くにあるエタノールやメタノールは水と無限に混ざり合いますし、脂肪酸などの酸類はよく水に溶けます。また、タンパク質も炭水化物も水に溶けるか、あるいは簡単に水に溶ける形に変えられます。ベンゼンのような水に溶けないと言われているものでも若干は溶けます(ベンゼンの水に対する溶解度は22℃で0.07g/水100g)。したがって、私達が手に入れることのできる水には多量の有機物が含まれていると考えなければならないでしょう。さらに完全に分子の形で溶けていなくても、微粒子状態で懸濁しているものが多量にあります。多くの微生物が懸濁状態で水に「溶けた状態」になっています。

 水をきれいにする手段として、蒸留、イオン交換樹脂カラム透過、逆浸透膜通過などの方法があります。いずれ後で触れるつもりですが、水を本当にきれいにするのはなかなか難しいことです。戦後間もなく純粋製造の新技術としてイオン交換樹脂を使用する方法が盛んになりましたが、イオン交換樹脂精製水は純水と称されながら、確かにイオンは除かれて、pH7に近い値を示しているものの、微生物が処理前のものよりも多くなっていたことがありました。一般には水はどんな有機物でも抱え込んでしまうと考えなければならないようです。

(無機物の溶解)
 一般に無機物は金属にしてもセラミックスにしても水には溶解しにくいのですが、どんなものでも微量には溶解すると考えた方がよさそうです。例えば漆喰に使われる水酸化カルシウムは0.185g/水100g(0℃)の溶解度を持っていますし、炭酸カルシウムも溶解度は1.5mg/水100g(25℃)程度に過ぎませんが、二酸化炭素を含む水には炭酸水素カルシウムとして容易に溶解します。

 多くの岩石は水に不溶とされていますが、河川水に溶解して運ばれた無機物が集積して、海水は食塩NaClをはじめとして、金、銀、ウランに至る60種類以上の元素を1リットル当たり35gも溶かし込んでいます。無機物はイオンの形になりやすく、イオンになればいくらでも水に溶け込みます。

 水ほどいろいろな物質を溶かす働きをもった物質は、自然界には他にありません。


前のページへ目次のページへ次のページへ